小説の中で、一番早くラジオを登場させた作家は、菊池 寛だそうな。どういう作品にラジオが出てくるのか知らない。1923年、真空管ラジオを発明したマルコーニが、無線電信網が世界をおおうと宣言した時期、『真珠夫人』から通俗小説に転向して、圧倒的な人気作家になっていた菊池 寛が、いち早くマス・メディアとしてのラジオを自作に取り入れたとしても不思議ではない。
では、小説に一番早くテレビを登場させたのは誰だったか。
中田 耕治である。本人が言うのだから間違いない。『闘う理由、希望の理由』という短編にテレビ・カメラを登場させた。当時、敗戦国の日本は占領下にあって、まだテレビ放送も認可されず、現実にテレビなどどこにも存在していなかった。
そういう状況のなかで、ありもしないテレビを書きこんだ。この短編を「三田文学」に載せてくれたのは山川 方夫だが、彼はニヤニヤしながら、中田さん、いたずらですね、といった。
もうひとつ、それまで誰も使わなかった(セックス関連の)禁止用語を小説にはじめて書いたのも私だった。今では別にめずらしくもない名詞だが、これも私のいたずらだった。むろん、自慢になることではないが。