501

戦後すぐに里見 敦が書いた随筆に、電車に乗っている女、あるいはカップルを見ただけで、その女なりカップルのことがだいたい想像がつくとあった。作家の眼はおそろしいものだ、と思ったおぼえがある。
たとえば、レストラン。
楽しそうにしゃべっているのもいれば、押し黙ったまま食べているのもいる。このふたりはどうして知りあったのか。男と女だから、どういうわけか親しくなって、現在にいたっているわけだが、ベッドの中ではどうなのか。作家でなくても誰しもそんなことを考えるだろう。

里見 敦という作家の眼力はすごいものだが、いまの私にしても里見 敦程度のことならいえるような気がする。

年配のふたりづれがテ-ブルで向きあって食事をしている。

沈黙の長さが、結婚生活の長さとほぼ正比例する。