雨の日の神宮外苑で、学徒出陣の壮行式がおこなわれた。
今でも、テレビのドキュメントで、戦時風景として放映されることがある。そのシ-ンのなかで、38式歩兵銃を肩にになって、水しぶきをはねあげながら行進する角帽の大学生たち。
観客席には、各大学から動員された数万の学生が、校旗をかかげ、大きな白地の幟(のぼり)や幔幕(まんまく)を立てて、観客席から熱狂的な大歓声をあげていた。
私もその学生たちのなかにいた。
むろん、フィルムに写っているわけではない。観客席のどこか隅っこにいたのだから。隣りに女子学生たちが日の丸の鉢巻きをつけて並んでいたことを思い出す。同年代の女の子と隣りあわせに並ぶことなど考えられない時代で、彼女たちの黒髪が雨に濡れそぼって、雫が白い頬やうなじを流れていた。見てはならないものを見たように息苦しかった。
その日、東条秀樹首相が壇上に立って、学生たちの士気を鼓舞する演説をした。内容はまったくおぼえていない。ただ、その声と独特の抑揚がかすかに耳に残っている。
『ブリキの太鼓』の作家が、17歳で、ナチス親衛隊に編入されたことを告白したとき、まっさきに雨の日の神宮外苑の、学徒出陣の壮行式の情景を思い出していた。
私は17歳だった。