芥川 龍之介は「闇中問答」のなかで、
シェクスピィアや、ゲーテや、近松門左衛門はいつか一度は滅びるであろう。しかし彼等を生んだ胎(たい)は、・・・大いなる民衆は滅びない。
という。
芥川の民衆礼賛を私は素直に信じる。
ただし、
芸術家は或は滅びるかも知れない。しかしいつかは知らず識らず芸術的衝動に支配される熊さん八さんは滅びないね。(「妄中問答」)
という芥川にはあまり感心しない。たとえ、これが関東大震災の後で、彼の内面に暗澹たる思いがあったとしても。
いっそ、ゲーテや、近松門左衛門は、すでに滅びてしまったような気がする、といったほうがいい。ゲーテがドイツ人の誇りでありつづけていても、舞台で近松が上演されつづけているにしても。
セリーヌや、ブコウスキーのように、ゲーテくたばれ、近松門左衛門くたばれ、といったほうが気が楽だろう。
大いなる民衆などというものをどこで探せばいいのか。私のつぶやき。