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ヘラヘラヘッタラ ヘラヘラヘ。

映画、というより活動写真でおぼえた。エノケン(榎本 健一)の活動写真だったと思うのだが、間違っているかも知れない。ずっと後になって、これは落語家の三遊亭 万橘が、明治十三年頃、高座でヘラヘラ踊りを披露したときのものと知った。

赤い手拭い 赤地の扇 それを開いて おめでたや
ヘラヘラヘッタラ ヘラヘラヘ
太鼓が鳴ったら にぎやかだ ほんとにそうなら すまないよ
トコドツコイ ヘラヘラヘ

明治十八、九年頃には、

親がちょんこして わしこしらえて
わしがちょんこすりゃ 意見する ちょんこ

これは「ちょんこぶし」。
俗謡、流行歌には、その時代の民衆の欲求、そのひそかな願望、ときには挫折、あきらめが隠されている。ポップスもおなじことだが、ポップスのことばが、民衆の内面に根づくことは少ない。
むろん、時代の変化のスピ-ドが違うからだが、歌詞の一部が流行語になる基盤がないからだろう。
しかし、「ほんとにそうなら すまないよ」とか「おやまかちゃんりん」、「テケレッツのパ-」、「オツだねえ」といったことばが、明治の俗謡からつたえられてきたことに気がつく。
そのあたりから、日本人の心性、品性、さらには性意識といった問題を考えている。

もっとも、「真実ねえ、あきれるねえ」(明治42年)とか、「いやだいやだ、インテリさんはいやだ、頭のまんなかに 心狸学 社怪学 なんてマがいいんでしょ」という声が聞こえてきそうな気がする。
「なんてマがいいんでしょ」は、明治43年頃の「ハイカラぶし」から。