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ある女流作家がエッセイ集を出した。
関東の居酒屋をめぐり歩いて、ほろ酔いまかせに思い浮かんだあれこれ をつづったものという。『東京居酒屋探訪』。おもしろそう。
この人が「これまた乙なもの」というエッセイを書いていた。居酒屋にきている連中を観察したあと、

「そしてみんなそれぞれ、かならず帰ります。闇に飲まれて家路を辿ります。そのさびしさも、これまた乙なものでした。」

わかるなあ、こういう気もち。
それはそれとして・・・ほう、と思ったのは「乙なもの」といういいかた。今でも使われている。このことに感動した。感動というのも大げさだが。

オツなもの。もともとは鼓打ちからきたらしいが、気がきいている、とか、味なものといった意味で使われる。漱石の『坊ちゃん』にも出てきた(と思う)。
こういうことばが、今の若い女性に使われていることがうれしい。
ただ、このことばには、もう一つ、微妙なニュアンスが重なっている。あまり見かけない、ちょっとスジが違う、奇妙な、といった感じ。外国語ではうまく表現できない。
奇異  strange でもないし、おかしい funny ともいえない。
「彼はいつもオツにすましている」というように使われる。和英辞典 をひいてみると He always puts on airs.という例が出ていた。
私の感じでは、すこし queer で、weird なもの。

こんなことを考えるのは、あまりオツじゃねえな。