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フランソワ-ズ・ロゼェの「回想」に、ルイ・ジュヴェが出てくる。映画「女だけの都」(ジャック・フェデル監督/35年)に出たときのジュヴェについて、

「さすがの私も結婚のシ-ンでは、彼にすっかり気押された。彼のしぐさはどれも堂に入っているばかりではなく、ラテン語まで話した。おまけに、ミサまでやってのけた。
「どこで習ったの」
「ぼくは宗教学校で教育を受けたし、聖歌隊員だったんですよ」
ジュヴェの少年時代、フランスの中等教育ではギリシャ語、ラテン語がひろく教えられていた。これは、歴史、哲学をふくめた「文学」の研究、法律の研究にもっとも必要と考えられていた。
同時に、自然科学関係のエリ-トの養成にあたった理工科大学(エコ-ル・ポリテクニック)や、高等工業専門学校(エコ-ル・サントラル)、さらには医科大学も、ギリシャ語、ラテン語の古典の教養が必須課目だった。
古代史もまた、中等教育では重要とされて、7年間のうち2年間は勉強しなければならなかった。
歴史/地理の学士号や、いわゆるバカロレアの資格の取得には、少なくともラテン語が読めること、そして古代史の質問に答えられることが条件とされていた。

第二次大戦の「戦後」、フランスの教育改革で、ギリシャ語、ラテン語の必修は、完全に消えてしまった。
それでも、古代史は、中等教員免許(アンセ-ニュマン・スゴンデ-ル)や大学教授資格試験(アグレガシォン)では必須のものとされていた。

古典に関してジュヴェがたいへん造詣が深かったことは、『ルイ・ジュヴェ』に書いておいた。私は、これだけのことを調べてから書いたのだった。

→ 『ルイ・ジュヴェ』(第四部第二章)