眠る前になにかしら読む。これは、長年の生活習慣になっている。活字中毒だろう。
むずかしい本を読むと、眼がうろうろして何度もおなじ行をたどったりする。すぐに眼を閉じる。
眠る前に、うっかり翻訳ものを読む。私には危険なことなのだ。おもしろければおもしろいで心停止は間違いない。つまり、いのちにかかわる。
そういうときは、すぐに本をほうり出して、眠ることにする。だからよく眠れる。
寝る前に俳句を読むのもいい。できれば昔の女性の俳句を。
傾城のすてし扇や 閨のそとなみ
こういうのを読むと、いろいろ想像が働いて楽しい。作者がどういう女性なのか、まるで知らないのだが、なみさんの句には、
押し入れや ふとんの下に秋の蚊帳
菖蒲刈る水のにごりや ほととぎす
もう、どこにも見られない風景。
千代といえば加賀の千代女だろう。読んでみよう。
縫い物に針のこぼるるウズラか
売られても秋を忘れぬウズラかな
虫の音や 野におさまりて庭のうち
この千代さんは有名な女流だが、すぐに眠くなるからいい。
セミ鳴くや 我が怠りを思うとききせ
セミ鳴くや あぶら流るる 呪いクギ 花讃
こわい。これ以上読むと危険。この花讃という女性の句に、
ムクドリや 夜も白川の関の上
こういう句を読むと、すぐに白河夜船。おっと、いけねえ。こんなことばも、もう誰も知らないよなあ。