何世紀も昔、すべての衣服は左側にボタンがついていたそうな。
中世になって、剣をすばやく引き抜けるように男の衣服は右ボタンになり始めた。
あたらしいデザインでは、すばやく左手で上衣のボタンをはずして、右手で剣をとるように考案された。しかし、実際に剣を抜く目的からはなれて、男の右ボタン、女の左ボタンは、現在までずっとつづいている。
「実際に剣を抜く目的からはなれて」の意味は、きみの想像にまかせよう。
現在では、男のコートの袖のボタンはあくまで飾りだが、これも実際的な目的から始まっていると思われる。今よりもコート袖が広くたっぷりしていた時代にボタンがはじめて使われたらしい。ボタンで袖をしっかりとめれば、両手がらくに使える。
別の説もある。プロシャのフリードリヒ大王は兵士が袖口で顔を拭くので、制服の袖をボタンでとめるように命じた。
ボタンにまつわるいろいろな迷信がある。ボタンの穴を間違えてボタンをかけ違えると、悪運に見舞われる。服を外に出してキチンとボタンをかけ直すと悪運は免れるという。
こういうのは雑学だが、芝居の演出をするには、こんなアホらしいことまで知っておく必要がある。一度、役者にボタンの穴を間違える芝居をさせた。それに気がついてあわててボタンをかけ直す。それだけで、観客はどういう「役」なのか理解する。ただし、いつもそんな芝居をさせていたわけではない。