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女の浴衣すがたは美しい。
幼い少女から成熟した女まで、浴衣を着ているときにこそ、日本の女は輝きを見せる。
毎年、おどろくほど新奇なデザインが多くなって、昔ながらの古風な模様は少なくなっているが、それでも紫の矢絣(やがすり)などは、浴衣の模様としてもっとも美しいもののひとつ。

歌舞伎の「お軽」、「勘平」は誰でも知っている。三段目、「お軽」の着付けが矢絣(やがすり)である。梅玉の「勘平」につきあった松蔦(しょうちょう)の「お軽」、矢絣(やがすり)がよかった、という。それにひきかえ、羽左衛門の「勘平」のときに、仁左衛門は矢絣(やがすり)の変わり模様にしたがよくなかったという。
先代の仁左衛門はすこしでっぷりしていたから、振り袖にわざわざ変わり模様を工夫したのだろうがかえってよくなかったらしい。(この仁左衛門は戦後の混乱のなかで横死している。)

これも先々代の梅幸が工夫した腰元ふうの矢絣(やがすり)は、梅幸の丈(たけ)が高いのと、白地が淡白にすぎて似あわなかった。菊五郎(六代目)は、濃紫がよく似あってこれが流行した。

こんなことももう忘れられているが、ハイティ-ンの女の子が紫の矢絣(やがすり)を着ていると思わず見とれてしまう。
江戸の女たちのもたなかった美しさ。