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この「中田 耕治ドットコム」を読んでくれる人からメールをいただいた。
渡辺さんという方である。
そのプロフィールに、趣味、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなクラシック、嫌いなクラシック、好きな古典コメディ、嫌いな古典コメディ、好きなマンガ、嫌いなマンガ、といった項目が並んでいる。
おもしろい。私の好みと正反対ではないが、渡辺さんの好き嫌いは、私とかなり違うところがあって、その違いを考えて楽しかった。

たとえば、渡辺さんは好きな飲みものとして、ウィスキー、野菜ジュース、嫌いな飲みものに、ワイン、果物ジュースをあげている。
私ときたら、ウィスキー、ワイン、日本酒、焼酎、なんでも好きなので、とても一種類にしぼれない。いちばんおいしかった一つは、台湾の三鞭酒。これこそまさに破天荒、驚天動地! 風味絶佳、春風駘蕩、青年一朶花剛開!(なんだか開高 健ふうになってきた)李白になったような、いや、胡蝶になって雲の上を歩いているような気がした。

マヤ・ピカソ(ピカソのお嬢さん)に会いに行ったときは、南フランス各地の地酒、つまりワインばかり飲みまわったが、どこの土地のワインも、安くておいしいものばかり。パリに戻って、ヘミングウェイが好きだった「シャトオ・デ・パプ」を飲んだが、値段は比較にならないほど高いのに、それほどおいしいとも思わなかった。
野菜ジュース、果物ジュースは、よく知らない。あまり飲んだことがないので。

渡辺さんの好きな古典コメディは、ダニー・ケイとマルクス兄弟。私も大好き。もっとも、ほかのコメディも好きなので、エディ・カンターや、ロイド、キートン、ローレル&ハーディ、ジョー・E・ブラウン、みんな好きだった。日本にはあまり紹介されなかったW・C・フィールズまでまぜると、誰を選んでいいかわからなくなる。
もう誰もおぼえていないけれど、ミッシャ・アウアや、アンディ・デヴァイン、エヴァレット・ホートン、さらには“シュノッズル”ジミー(ジミー・デューラント)といった「さしたることのない名前」(注)の喜劇役者たちを思い出すだけで、私は数分から数時間、幸福でいられる。
だから、嫌いなコメディはない。

渡辺さんのHPには、「政治的思想の話題を主に、哲学・文学論などを織りまぜた日記・論文」が掲載されるという。渡辺さんのお人柄がわかるような気がする。
その最新作は、「性愛」の世界について。
原稿用紙で50枚以上の堂々たる大作。私にはちょっとむずかしかった。

しかし、渡辺さんのものを読んで――いつか近い将来、私も「性愛」の世界について考えてみようか、と思いはじめた。

――「未知の読者へ」No.9

*(注)チャールズ・ラムのことば →『ルイ・ジュヴェとその時代』(第1部第12章)