351

エリザベ-ト・シュワルツコップが亡くなった。(06.8.3)。享年、90歳。

ハンス・カロッサに『一九四七年の夏』という作品がある。つい最近、なんとなく読み返したのだが、ふとエリザベ-トのことを思い出していた。
私の「なんとなく」には理由があって・・・エリザベ-ト・シュワルツコップは、戦後、すぐに、『魔笛』を上演している。敗戦直後のドイツで、劇場らしい劇場はほとんど壊滅していた。オペラの上演など考えられなかった時代で、楽器も、音響設備も、照明器具も満足にそろわない舞台で、エリザベ-トは歌いつづけた。
戦後ドイツの最初の歌声だった。
じつはドイツ・オペラのことは、ほとんど知らない。
昔のマルタ・エッゲルトや、ワグナ-ならシェルメ-ヌ・ル-ビンぐらいしか聞かなかった。好きな歌手もアンネ・リ-ゼ・ロ-テンブルガ-だから、ドイツ・オペラについてはまるで無縁だった。
それでも、エリザベ-ト・シュワルツコップの『フィガロ』、『バラの騎士』あたりは聞いている。
ずっとあとになって、この1945年の『魔笛』の録音を聞いた。録音はよくなかったが、エリザベ-ト・シュワルツコップが、戦後、誰よりも早くモ-ツァルトを歌ったことに胸を打たれた。

評伝『ルイ・ジュヴェ』のなかで、フランスのディ-ヴァ、ルネ・ド-リアのことにふれたが、このときドイツのディ-ヴァ、エリザベ-ト・シュワルツコップを引きあいに出した。(「第六部第五章」)
ルネ・ド-リアと並んで、エリザベ-トの歌は心に響いた。

エリザベ-ト・シュワルツコップが亡くなった晩、『ます』と『至福』だけを聞いた。1946年の録音。
聞きながら、カロッサを思い出していた。