バカは差別用語。使ってはいけないといわれた。
小説のなかで、登場人物が相手に「バカ野郎!」とあびせる。この罵声が使えるのと使えなくなるのでは、性格設定も効果も違う。そこで修正した。
「バカ野郎。いけねえ、こいつは差別用語だったな。この頭のお不自由な野郎!」
いらい私は自作で「バカ」ということばを使ったことがない。
「新明解国語辞典」(三省堂)に用法が出ている。
心を許し合える間柄の人に対しては親近感をこめて何らかの批判をする際に(と、ことわったうえで)「あのバカが、またこんなことをして」。
女性が、相手を甘えた態度で非難していうことば。「ばかばか」。
いいねえ。こういう辞典が出てきたのはうれしい。
例によって、少し脱線しよう。
女性が、相手を甘えた態度で非難していうことばに、「知らない」といういいかたがあった。「ばかばか」といって「知らない」と口をとがらせる。
「あのう、」
「どうしたのさ」
「あのう、」
「あのう・・」
「知らなくッてよ」と肩を揺って「知らないわ、わたし」
明治38年の日本には確実に棲息していた「女」の種族だが、いまどきこんな女の子はどこにもいないだろう。泉 鏡花の『胡蝶之曲』に出てくる。