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2005年、当時、IT産業の「ライブドア」の社長だった堀江 貴文の人気は絶頂で、「ホリエモン」と呼ばれて、たえずマスコミの注目をあつめていた。
マスメデイアに進出しようとして株式の大量取得に成功したり、選挙に立候補したり、その行動に声援を送った人も多かった。
やがて、会社ぐるみの粉飾決算の容疑で逮捕された。東京拘置所に収監され、「ホリエモン」の栄光は失墜した。(その後、3億円の保釈金で保釈された。06.4.27)
全盛期の彼のことばをおぼえている。深夜のレストランで食事をとりながらインタヴュ-をうけたとき、彼はいった。
「最高の食材を、最高のレストラン、最高のシェフの料理で味わうのが最高の贅沢というものだ」といった。
連日、深夜過ぎまでマスコミに追いかけられるのだからたいへんだなあと同情したが、こういう無邪気さが彼の人気をささえていたのかも知れない。私たちの精神の奥底には、いつもこうした人物に対する無意識の崇拝(worship)、ひそかな羨望、嫉視がひそんでいる。私は、こういういいかたに、「ホリエモン」の人間としての倨傲を感じたが、むしろ、精神的な貧しさに憐憫をおぼえた。

ある俳優のことばを思い出す。
「一流の劇作家の脚本を、一流の劇場、一流の俳優で上演して成功することなど、たいしたことではない」。
ルイ・ジュヴェ。
「ホリエモン」とはまるで関係のないことだが。