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芝居を見る楽しさ。それは役者を見る楽しさにひとしい。
じつにいろいろな俳優、女優を見つづけてきた。それぞれの役者の一瞬の姿が眼に灼きついている。芝居を見る楽しさは役者を見る楽しさでもあった。
戦後の芝居を見つづけてきた人が、最近、三島 由紀夫の『鹿鳴館』を見た感想を私にメ-ルでつたえてきた。

ふと気づくと、眼前の舞台に、かつての中村(伸郎)・杉村(春子)、森(雅之)・(水谷)八重子、中村(伸郎)、村松(瑛子)、平(淑恵)・佐久間(良子)、(市川)団十郎、二世(水谷)八重子のそれぞれの舞台が映って、えもいわれぬ楽しさでした。言葉の上では知っていた「団菊爺い」の列に連なる年齢に私もなっていたのです。

私の眼にもそれぞれの舞台が灼きついている。きみがあげている俳優、女優たちには、ごくわずかな機会だったにせよ個人的に知りあい、親しく話をしたことのあるひともいる。だから、きみのいう「えもいわれぬ楽しさ」は、私のものでもあった。
ある時代をともに生きたという思いは私の胸から消えることはない。ただ、残念なことに、私はもう劇場に足をはこぶことがなくなっている。