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中国の女流作家、林 白の短編を読んでいて、こんな一節にぶつかった。古い写真を見ながら、主人公の胸によぎる思いは・・・

「彼女の声には、なつかしさと愛しさがとめどなくあふれ、人生の黄昏を迎えた老人が胸に刻み込まれた若い頃の恋を追憶するかのようだった。そういった写真は美しく、悲劇的で、死ぬまで忘れがたい」。

小説とは無関係に・・・このパラグラフから私の連想がはじまった。
老人がかつて若き日に胸に刻み込んだ恋を追憶する。さしてめずらしいことではない。
北アルプスに登っていた頃、大正池の近くから穂高連峰を遠く眺めていた老人を見かけた。おそらく昔、自分が登った山々をなつかしんでいるのだろう。その姿に胸うたれたことがある。「美しく、悲劇的で、死ぬまで忘れがたい」思い出。
眠れない夜に、かつて愛した女を思い出すことがある。
なつかしさと愛しさがとめどなくあふれるならいいのだが、小説と違って、そういう思い出がいつも美しいはずはない。まして、その思い出が幸福なものとばかりはかぎらない。私などは、いくら悲劇的などと気どってみても、今になってみると、われながら滑稽だったり、なんとも恥ずかしいことばかり。それでも逆説的に、そうした思い出が死ぬまで忘れがたいことになる。
ただし、最近の私ときたら、死ぬまで忘れないどころか何もおぼえていないかも知れない。(笑)ひどい話だ。
林 白や遅 子建などの女流作家については別の機会に書くつもり。忘れなければ。