運命というほどではないが、ツキ、ラック、運といったことを考える。とくに芸術家には、自分ではどうしようもない、おのれのあずかり知らぬ運、不運がある。
「危険な情事」という映画にはじめてグレン・クロ-ズという女優が登場した。まだスト-カ-という言葉もなかった頃に、おそろしい悪女を演じて強烈な印象をあたえた。
当時、ブロ-ドウェイでは、イギリス、ロイヤル・シェイクスピア劇団が『危険な関係』を出していた。グレン・クロ-ズはそのオリジナル・キャストに交代して出ることになっていた。彼女も、この舞台に立てるものと期待していたはずである。ユニオンの規定で、外国の舞台公演は、一定の期間オリジナル・キャストで上演したあと、アメリカの俳優、女優と交代しなければならない規定がある。
ところが、この公演はフロップして、グレン・クロ-ズは舞台に出られなかった。
舞台が打ち切られた直後に、グレン・クロ-ズの「危険な情事」がヒットした。ラストはクル-ゾ-のパクリだったが、このシ-ンのグレン・クロ-ズは衝撃的だった。
舞台のプロデュ-サ-はさぞ後悔したにちがいない。グレン・クロ-ズが舞台に出れば大ヒットしたはずだから。
1988年、映画で「危険な関係」がリメイクされて、グレン・クロ-ズは映画「危険な関係」でも成功して、演技派の女優として高い評価をえている。
なぜ、グレン・クロ-ズに関心をもったのか。じつは、映画「危険な情事」が公開されたとき、その原作を訳したのは私だった。だから、その後もこの女優さんに関心をもった。まさかディズニ-映画にまで出るようになるとは思っても見なかったが。