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親しい中国人の女性から、林 月の版画を贈られた。林 月は現代中国の芸術家だが、有数の風景画家という。これを倦かず眺めていて、ふと、ある詩句を思いだした。

みどりの雲と結ひし髪、その白さ雪を凝らす肌。眼には秋の水の波のただよい、眉は春の山の黛(うすずみ)を挿(さ)す。紅(くれない)の頬は桃の花の淡き粧(よそお)い。朱(あけ)の唇はかろやかな桜桃のふくらみ。鞋(くつ)はほっそりと可愛い足をつつみ、指(おゆび)はしなやかな春の筍の姿さながら。

古い中国小説のなかにあった。いまの私は、こんなアーカイックなクリシェがなつかしい。唐、宋の頃の春風駘蕩たる気分がなぜか私を惹きつける。
いつか、こんな常套的なクリシェばかり使った短編の一つも書いてみたい。