猿まわし。
小太鼓に二尺以上もある竹のバチをあてる。猿まわしに使う小太鼓は、お祭りの小太鼓よりもずっと小ぶりのもので、バチをあてるのがむずかしいという。
猿まわしの肩から、ひょいっとちいさなサルが飛び出す。田舎の婆さまのように、腰をかがめ、首の綱を気にしながら、ヒョコタンヒョコタン歩き出す。
ひとまわりすると、猿まわしが背中の行李(こうり)から、半紙に描いた日の丸の旗を出して、サルの手にわたす。
今日はめでたや お家は繁盛
天下太平 日の丸 出して
今日の この日を お祝い いたそう
とことん とことん とことんとん
サルは、日の丸の旗をバサバサ振って、からだを左右に揺すりながら、太鼓にあわせて歩きまわる。そのようすが滑稽なので、見物人が笑った。
次の出しものは、犬にまたがったサルの那須の与一が、棒の先に結びつけた扇を的に、竹の弓を引きしぼり矢を放つ。なかなかあたらない。
サルも ときには 下手をする
九郎義経 馬から 落ちる
雲から 落ちるは 久米仙人
首の 落ちるは 失業者
すってん すってん すってんとん
みんながどっと笑った。
このときはじめて猿まわしを見た。おそらく4歳の頃。