寒い。
私の好きな久保田 万太郎の句をあげてみよう。
寒き灯のすでに行くてにともりたる
このあわれ。末五が少し気になるのだが、恋の句として読めば、やはりこうなるしかない。
年の市 子に手袋を買ひにけり
「ただごと」の、どうってこともない俳句だが、これだってしみじみとした親子の姿が眼に浮んでくる。
たかだかとあはれは三の酉の月
この悲しみはもう誰にもわからない。
敗戦直後の、空襲で焼けただれた東京の廃墟のなかで詠まれた句といえば、いくらかは想像できるかも知れない。浅草にいて、すみだの向こう、本所、深川、さらには日本橋、京橋、西は九段まで、少し眼を移せば、鶯谷、三河島まで、荒涼たる風景がひろがっていた。
この句は子規絶命の「葉鶏頭の十四、五本もありぬべし」とともに、作者の悲傷がそくそくと迫ってくる。