吉行淳之介が『コールガール』という小説を書いていた頃、私が訳した『コールガール』からいろいろ引用されていた。
当時、知りあったコールガールに聞いたことがある。
娼婦はほんとうに客に惹かれることがあるのだろうか。
はじめはまともに答えてくれなかったが、しばらくして自然に答えてくれた。
客のなかには醜い男もいる。醜いほどではないにしても自分の好みのタイプではなかったりする。そういう男に気を許すことはない。客もそれを知っていて、たいていの男たちは、自分だけの快感をもとめるだけで、女の感情など気にかけない。
しかし、ときにはほんとうにほれぼれするような男に出会うこともある。ルックスや個性、その相手が特別なものに見えるような、ほんのちょっとしたことがあって、その男の相手をするのが楽しくなる。
ところが、たいていの娼婦は、たとえ心を惹かれる男にぶつかっても、深間にはまり込んで問題を起こすようなことはない。むろん、そうした男と寝るのは楽しいのだが、娼婦はあるところからはっきりした距離をとって真剣な愛情をもたないようにする。
昔の遊女もおなじだったに違いない。
今から四十年も前の話。今の女性たちのことは知らない。