山登りに熱中した時期がある。中年過ぎての山歩きだったから、大きな顔はできないのだが、平均して10日に1度、多いときで、月に5、6回、山を歩いていた。
アメリカ軍放出の戦闘用のザック、磁石、軍手にナタ、飯盒、水筒。網シャツ、黒いカッターシャツ。靴だけはスウェーデン製のものを愛用していた。
ある日、仕事を終わって夜中から歩き出して、夜中じゅう歩いて、翌日の昼過ぎに知らない麓に下りた。村人は私を営林署の人と間違えたらしい。
はじめの数年はひとりで歩いていたが、やがて「日経」の記者だった吉沢 正英といっしょに登るようになり、さらに安東 つとむ、石井 秀明たちと登るようになって、山男らしくなってきた。ハイキング・コース程度の低い山でも、わざとコースをそれて、ケモノ道や、杣人(そまびと)の道をたどって歩くと、ずいぶん苦労するし、ときには思いがけない難所にぶつかる。そういうとき、信頼できる仲間がいてくれるのは心強い。
この山登りが私を変えた。どういう事態にぶつかっても機敏に対処する姿勢がいくらか身についたような気がする。