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内村 直也の「えり子とともに」の放送開始は、1949年10月だった。主演者は、小沢 栄(のちに栄太郎)、阿里 道子。音楽は芥川 也寸志、のちに中田 喜直。2年7ヶ月、127回。
当時、こういう連続放送劇ははじめての試みで、四十代だった内村さんはライターとして、五十代の伊賀山 精三、三十代の梅田 晴夫、二十代の私を起用した。ほんとうは矢代 静一に打診したのだが、矢代が断ったため私を起用したのだった。
私は放送劇を書いた経験もなかった。原稿の注文もなかったし、前途暗澹たる状況だった。内村さんは、そういう私を憐れんで、勉強の機会をあたえようと思ったのだろう。実際に放送の現場に立ち会ったことは得難い経験になった。
内村さんの援助で、私は大学に戻った。ある日、講師の加藤 道夫が驚いた顔で、
「きみ、大学に戻ってるんだってね」といった。
このときから文学落伍者(リテ・ラテ)として生きようと思った。