ラジオをはじめて小説に出したのは菊池 寛だそうな。
はじめてテレビを小説に出したのは誰か。これはわかっている。
中田 耕治だった。本人がいうのだから間違いない。「三田文学」に書いた短編『闘う理由 希望の理由』のなかで、TVカメラの砲列がリングをとり囲むシーンを書いておいた。まだ民間放送も存在せず、公共放送の試験放送も出ていなかった。
私はラジオの現場で仕事をしていた。
それだけに、あと数年でテレビが確実に出現すると思っていた。そうなれば、かならずスポーツの実況放送が流れる。そう思っていたずらをした。
編集を担当していた山川 方夫は、さすがに気がついて、
「こんなの出して大丈夫ですか」
といった。