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若城 希伊子は、ほんとうのお嬢さん育ちで、おだやかで上品な女性だった。いつも華やぎのある微笑を見せて、気品があって、すきッとしていた。
岡田 八千代に師事したほか、川口 松太郎、内村 直也、吉屋 信子に師事した。戦後の混乱のさなかに父君の事業が挫折したため、ずいぶん苦労したらしい。
戦後すぐに劇作家として登場した。新派の『想い川』などが代表作だと思う。私は八百屋お七ひとりのモノローグ芝居『お七』を演出したことがある。
若城女史は途中から小説を書きはじめて、『小さな島の明治維新』(82年)で「新田次郎文学賞」、『政宗の娘』(87年)などがある。残念なことに、晩年の彼女が心血を注いだ、井伊家の歴史を描いた大作はついに未完成のままに終わった。晩年は、折口 信夫の教えをまもって「源氏」の講義をつづけた。私の『ルイ・ジュヴェ』の完成を喜んでくれたが、出版を見ずに亡くなった。私としては、ほんとうに残念なことだった。
若城女史が亡くなってときどき彼女の作品を読み返す。
たとえば、『空よりの声』は川口 松太郎とのかかわりを描いた作品だが、芝居や小説の世界を知るうえで、若い人の必読の芸談、芸評、作家論だろう。