ガルボがはじめて主演した映画は、G・W・パプストの『喜びなき街』だった。第一次大戦の「戦後」の暗い世相を描いた映画だった。(私は、おなじように、敗戦直後の東京で見た。戦後すぐで、日本映画の製作はまだ順調ではなかった。映画館も上映できる映画が払底して、ブローカーがどこかの倉庫にあった古い活動写真のフィルムをひっぱり出してきたらしい。)
この映画では、敗戦後のドイツのすさまじい荒廃、頽廃のなかを、孤独な美少女があてもどもなく彷徨する。ラスト・シーンで、ごった返す雑踏(無声映画だから、その喧噪は聞こえないが)のなかに、まったく無名のマルレーネ・ディートリヒの姿があった。一瞬、ガルボとすれ違うシーン。これを「発見」したとき思わず眼を疑ったことを思い出す。
このことは誰も指摘していない。私は「幻影」を見たのだろうか。