入江 美穂
中田耕治先生は、私の知らない世界への窓であり扉であったと思う。
先生との出会いは偶然だった。社会人になって、多分4~5年過ぎた頃、「定年退職したら翻訳でもやりたいな。」という軽い気持ちで、翻訳学校のサマーセミナーを受講した。日程で選んだと思うので、先生のお名前も怖さも全く知らなかった。
授業後の茶話会がきっかけで、その後も時々先生を中心とした活動に声をかけていただいた。翻訳の勉強の方は、自分の英語力ではさっぱりだったが、先生も、先生を囲む皆さんも、普段の私の世界とは別世界の人だったから、参加してお話を聞くのがとても楽しみだった。不肖の弟子にすらなれなかった私を、いつも変わらぬ温かいまなざしで迎えてくださった。それが30年くらい続いたと思う。
2021年11月3日に中田先生とお会いした時、一人ひとりのことを本当によく見ておられて、語られる言葉はその人だけでなく、誰にでも当てはまる何かがある、と改めて感じた。「後で。」という言葉に「きっとまた先生とお会いできる。」と期待を抱きつつ、叶わない予感も私のなかにあった。
私には窓から眺めてはいたが、扉を開く力はなかった。でも、得難いものをたくさんいただいた。
中田耕治先生、ありがとうございました。