中世にくらべれば、ルネッサンスの時代ははるかに高揚した気分が見られる。
フィレンツェの隆盛を代表するロレンツォ・デ・メディチの時代は、まさにハイ・ルネッサンスとよばれるにふさわしい最盛期だった。
この時期、ルネッサンスによって、はじめて人間が血肉を得た、といわれる。
ルネッサンスの人びとには、独立の人(ウォモ・シンゴラ−レ)、個の人(ウォモ・ユニコ)、他に抜きん出ようとする野望が共通していた。
自分は他人とは違うのだ。こういう気もちは、君主も、傭兵隊長も、芸術家も、女たち、乞食、みんなに共通していた。女は、自分と寝る男がほかの女とは違うからだだといってくれるように、セックスにもいそしんだ。
ミラ−ノのルドヴィ−コ大公は、愛妾、チェッチ−リアに暇をくれた(別れた)とき、「この女性(にょしょう)、性技、天下第一等」という証明書を書いてやった。
こんなふうに、いつもシンゴラ−レであろうとして、ユニコをめざして、他に抜きん出ようという野望は、政治、経済、外交、戦術にもあらわれる。
フランチェスコ・スフォルツァ大公は、臨終の床で、
「もし三方に敵あらば、最初の敵と和を結び、つきの敵と休戦し、さてつぎなる敵に打ちかかり滅ぼすべし」と、遺言した。
銀行家も、商人も、経済戦争をつづけて、自分だけは生き残ろうとした。芸術家も、レオナルド・ダヴィンチをはじめ、いろいろな分野に手を染めて、ほかの芸術家に負けない仕事をするのが理想だった。ダヴィンチ、ミケランジェロ、もっとあとのベッリ−ニまで、ひとしなみにこの理想を追い求めた芸術家なのである。
だが、こうした気概のうしろには、ロレンツォ・デ・メディチの詩にあるように、
きたらむ時を な怖れそ。
乙女うるわし 恋人うれし
何思うべき 今日より先を
といった、どこか悲哀が迫ってくる予感がただよっていた。
万能人(ウォモ・ウニヴェルサ−レ)は、こうした時代に、不屈の気概をもって生きた人たちのことで、ダヴィンチほかの少数者だけをいうわけではない。