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マリリンの魅力

 マリリンはいつまでもすばらしい魅力を見せている。
 ただし、その魅力はセックス・アピールに集中しているわけではない。そう単純にはいい切れない。なぜだろうか。
 めいめい、ご自分の恋愛を考えてごらんなさい。きみたちは、恋人を好きになったとき、相手の不明瞭な部分に惹かれたり、または明瞭な部分に惹かれたりする。それが恋愛というものではありませんか。

 1889年、トマス・エジソンが動く絵(ムーヴィング・ピクチュア)の開発に成功して、はじめて活動写真、つまり映画(ムービー)が登場して以来、無数のスターがスクリーンを彩ってきた。
 映画の影響力は絶大なものだった。それだけに、どういう国でも、社会的な防衛本能から映画の影響をおそれる人たちがいた。シカゴでは1907年、ニューヨークでは1909年に映画の検閲が始まっている。当時のニューヨークの検閲機関は、「長過ぎるラブ・シーン……ピッタリからだを密着させてのダンス」に眉をひそめた。
「肉体の誇示、犯罪の描写、いやらしい、または暗示的な行為、不当な暴力、劣情を抑制するのではなく喚起するような行為は、道徳の二重基準(ダブル・スタンダード)、欲望充足のための安易な手段を恒久化する傾きがある」として検閲を強化した。
 1913年には、53本の映画が上映禁止、401本の作品がその一部を削除されている。今の私たちが見れば別にどうといった映画ではない。ただ、映画はいつの時代でもこうした社会的な禁遏(きんあつ)と隣りあわせに作られてきたのだった。
 映画の影響力の一つはスターという存在によるものだった。スターは作られる。ハリウッドの歴史は、それぞれの時代に君臨したスターの歴史になった。ハリウッドの歴史は、セクシュアルなスターの歴史だった。
 メアリ・ピックフォード、リリアン・ギッシュなどの清純派のスターから、ルイーズ・ブルックスのような「宿命の女」(ファム・ファタル)、クララ・ボウのようなセクシーな女優たち。今ではもう誰の記憶にも残っていないたくさんの美女たち。
 クララ・ボウは「イット女優」と呼ばれた。「イット」は誰でも知っている代名詞だが、二十年代には性的魅力、セックス・アピールという意味で使われた。この「イット」は、あたらしい女性たちの性的な解放と自立の象徴でもあったが、あくまで女の性(セクシュアリティー)女らしさ(フェミニニティー)を強烈に押し出して、男の関心を惹きつけるための武器でもあった。だが、現在、誰がクララ・ボウをセクシーな女優として記憶しているだろうか。
 女優が衣裳を脱ぎすてて美しい裸身をさらけ出す一方、できるだけ美しく着飾らせることも必要になる。セシル・B・デミルは、いつも映画のなかで、女優たちにつぎからつぎに美しい衣裳を着させた。そして、女優が豊満な腿や胸もとを見せる入浴シーンを「発明」した。
 セダ・バラは「悪女」としてスクリーンで美しい脚線美を見せつけ、ベッドに腰を下ろして、いとも優美な指先でストッキングを巻きおろして見せたり、ヒップ・フラスク、あるいはヘビー・ペッティングを見せた。
 マリリンは、こうした女優たちのすべてを体現していた。かつてマリリンがどんなにつよい非難にさらされたか、今になっては想像もつかないけれど、マリリンをおとしめることで優越感にひたった人たちが、たくさんいたことも事実なのである。
 だが、マリリンを非難したことばはすべて消え去ってしまった。いまの私たちは、マリリンがすべてをあたえてくれたと思っている。そういう思いが、マリリンをああも比類ない女優にしたのではなかったか。
 マリリンは少女時代にいろいろと不幸な経験をしている。女としての不幸も。なにしろ大不況、社会改革、そして戦争の時代だった。このことも注意していいだろう。貧困から這いずりあがってスターになった彼女は、アメリカの「機会と成功」の夢を実現したひとりだった。
 みなさん、めいめい自分の青春を思い出してごらんなさい。青春とは、なぜかいろいろと間違いをおかして生きることではないか。しかし、すぐに間違いをおかすことさえできない生きかたに変わってしまうものだ。マリリンは自分の人生でずいぶん間違いをおかして生きなければならなかった女優だった。ところが、今もって女としてわるびれずに青春を生きているといっていい。生前の彼女を非難した人々のことばなど、まるでうけつけない姿で。だからこそ、マリリンは時代を超えて私たちの「現在」にすばらしい魅力をつたえている。
 このマリリンは、じつはみなさんの「現在」なのではないだろうか。

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2007年07月24日 15:10に投稿されたエントリーのページです。

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